不死の魔女

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私は冷静になると、彼を見つめた。 彼も私を見て、悲しく微笑んだ。 終わりにしよう。 ドレイクはもう元に戻れない。私も十分に生きた。だからこれが最後だ。これが、最期だ。 私は鎖に縛られたまま、精霊魔法の呪文を唱え始めた。それを見た男は嘲笑した。 「無駄ですよ、特注の魔力封じの鎖だ。貴女でも解けまい」 男の言う通り、呪文を唱える度に鎖は私を締め付けた。しかし私は構わず続ける。 「地に眠る樹木の精霊よ…我が願いを聞き届けられよ…我ーー不死の魔女の心臓を贄に…憐れな命に慈悲を与えられよ…」 不死を捨てる方法が、ひとつだけある。 それは魔法の代償。 代償が自分の魔力で補えない時、術者は自分の命を差し出す。さらに精霊魔法は、その願いが清いものでなければ、聞き届けられない。 精霊は人間と異なる世界に生き、異なる価値観を持つ。だから彼らにとって、何が清いとされるのか、私には分からない。 「何だ…?」 床に僅かな振動を感じ、男に動揺が走った。 ドレイクの魂を救済する事が精霊に認められる事を信じ、私は呪文を唱え続けた。鎖の戒めが骨を圧砕し、痛みで意識が飛びそうになるのを必死で耐えた。 振動は激しさを増し、地下牢が崩れ始める。男の悲鳴と共に、石畳を突き破って樹木の根が現れた。それらはドレイクを優しく包み込んでいく。 負荷に耐えきれなくなった鎖が朽ち果て、私はようやく自由になった。 しかし砕かれた手足は体を支える事はできず、私はゆっくりと地面に倒れていくのを感じた。 ーードレイク。あなたと共に終われて、良かった。 千年の中で最も充足した気持ちの中、私の心臓は時を刻む事をやめた。
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