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大樹の隣で
***
村のはずれに立派な館があった。
ある日突然の地響きと共に、その館が崩れたかと思うと、樹の根と、緑色の巨大な生物が姿を現した。それは人の顔を持っていたようにも見えたが、村人がよく見る前にそれは樹木の根や枝に包まれ、その生物も抵抗するでもなく、眠るように樹木と一体になってゆく。太陽の光を浴び、みるみる内に豊かな葉を茂らせたかと思うと、まるでドラゴンの如き見事な大樹となった。
恐る恐る近付いた村人の一人が、衝撃で投げ出され絶命したらしい、家主である魔法使いの男を発見した。
この男は村人達にとって、医療魔法を施す有り難い存在でもあったが、陰では人に言えぬ違法な研究に手を染めているという噂もあった。だからこれはきっと、何かの実験に失敗してこのような事になったのだろうと、瓦礫に埋もれた複数の合成獣の骸を目にして、村人達は思った。
唐突に誰かが、あっと声をあげる。
合成獣の亡骸が、たちまちに美しい花や、樹々へと変わっていった。一体どうした事だろうと思ったが、美しく、しかしどこか悲しさを感じさせる光景に、皆息を飲んだ。
大樹の根元には、美しい紫色の花がひっそりと咲き、静かに風に揺れていた。
その花が、かつて多くの生贄を要する禁呪によって生み出された、不死の魔女の最期の姿である事は、村人の誰一人として気付く事は無かった。
ただ隣にそびえ立つ大樹が、ポルポラという名の少女であった花に、木漏れ日を優しく落としていた。
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