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時刻は正午前。この町では、二つのラーメン屋が売り上げとプライドをかけた勝負を繰り広げていた。
「おうおう開店時間も真似されちゃ困るねえ!」
「全くだぜ店長、言ってやりな!」
そう言って店の中から出てきたのは、頭にタオルを巻いた東のラーメン屋の店長。その声に乗っかるように発言するのはラーメン屋そのものだ。建物の声は確かにしているものの、人間には聞こえないらしい。
「真似?はっ、どっちが真似してるんだか!」
「そうだそうだ、お前らが真似してるんだろうが!」
買い言葉に売り言葉、そう返すのはスキンヘッドが特徴の、西のラーメン屋の店長。そしてラーメン屋そのものだ。東のラーメン屋と西のラーメン屋はライバルだ。どちらも激辛ラーメンを低価格で提供するという店の方針で、違いは店長の容姿くらいだ。ラーメンの辛さ、お客様の満足度、売り上げ。二人の戦いは色々な場で行われて、現在の戦績は五十歩百歩と言ったところだ。そして今日もまた、男同志の熱い戦いのコングが鳴らされた。
正午の鐘が鳴ってから一時間が経過した。未だ両店に客足は無かった。二人の店長は不思議に思い、一度言葉を交わすことにした。
「これはどういうことだい!」
「どういうことだい!」
それに返すのは西のラーメン屋の店長。
「知らないね、おたくのラーメンが不味いだけじゃないのか!」
「じゃないのか!」
「そんなこと言ったらお前も同じじゃねえか!」
そんなやり取りを交わしてみるも、いかんせん客が来ない理由はわからない。西のラーメン屋の店長は辺りを見渡すと、面食らった表情を浮かべた。東のラーメン屋の店長はそんな表情を疑問に思い、その視線の先を追った。
すると、その先には長い行列を作っているクレープ屋ができていた。ここから見える店主らしき男の顔は、とても穏やかだった。二人の店長は顔を見合わせると、肩を落とした。
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