車好きな少年と、見守る祖父の話。

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「母さん!」 駅の駐車場に止まっていた母の車に乗り込み、息を整えた。運転席には母、助手席には父、そして後部座席には妹が乗っていた。そうして出発した車は、祖父母の家へと向かって走り出した。緊張感のある空気が流れる車内には、母が好きなアイドルソングが流れていた。だが母はCDプレーヤーのボタンを一つ押して、その音楽を止めた。 三十分かけて到着した祖父母の家には、救急車が一台止まっていた。車から降りて、駆け足で玄関まで向かい、扉を勢いよく開けた。靴も脱がないまま家に上がり、祖父の寝室へと向かった。そこに広がっていた光景は、俯いたままの祖母と、青い衣装に身を包んだ男性が三人。声を出して泣いている親戚が一つの空間を囲むように座っているというものだった。頭の中では何が起きていたか、もう分かっていた。それでも、この目で確認しなければならない気がして、その顔を覗き込んだ。 そこには、安らかに眠る祖父の顔があった。 目を背けたくなるような事実、抱いて縋りたくなる祖父の体。胸の奥から、何かがあふれて零れてしまいそうだった。なんとも言えない表情で目を伏せている男性を見るに、もう既に手遅れだということは分かっている。それでもまだ生きている、人工呼吸を続けてくれなんて言いたくなるのは、きっと正しい僕の感性だ。嗚咽を漏らす親戚を押しのけ、横たわった祖父の隣に座った。もう一度祖父の顔に目をやると、安らかで幸せそうな表情をしているのが分かった。祖父は、幸せだったんだろうか。もしそうであったなら、僕も少しは救われる気がした。祖父の右手を、両手で握った。祖父は、この大きな手で僕の頭をよく撫でてくれた。しわだらけで、大きな手からは祖父という人間の生い立ちを感じた。この世に生まれ色々なことを経験して、そして今日という日にその人生の幕を下ろしたのだろう。 大好きだった、優しい祖父はもう帰ってこない。もっと話したかった、僕の車の助手席に乗せたかった。そう考えれば考えるほど、感情が涙になって溢れてきた。人目も気にせず、今は泣きたい気分だった。四畳半の部屋に、祖父を呼ぶ僕の情けない声が響いた。
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