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 いけない、と思いながらも目が左隣に吸い込まれた。  うっとりするほどきれいな横顔がある。きれいな鼻筋、机に置いた教科書を見つめる目の長い睫毛。  公立中学校の冴えない制服を着てても、清楚なお嬢様みたいに見える。  ふ、とユリちゃんが顔を動かしたので、わたしは慌てて自分の手元に目を落とした。  塾での自習時間。四人がけの長机が縦六列、横二列に並んだ教室にいた。  二次関数の公式なんてまるで頭に入って来ないけど、意地でも読むふりをした。  塾でユリちゃんと一緒になったのは、別に特別なことでもなんでもなかった。この田舎町には塾なんて数えるほどしかなく、一番大きなところに入ると必然的に同級生も多くなるわけで。  そんな感じでユリちゃんとも一緒になった、というだけだった。  ――じゃあユリちゃんのとなりの席がわたしの指定席みたいになったのも偶然なのかというと、それは違った。  最初の一回は、偶然だった。  ユリちゃんは塾でもあの透明な結界をまとっているせいか、なんとなくその前後左右に座る学生がいなかった。ユリちゃんはだいたい壁際の席に座っているので、隣は左か右しかあいていない。     
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