悲劇からの離脱

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 ばあさまの家の少し先にある、この森で一番大きいのではないかという大木の陰にオオカミはよく隠れている。私は毎回気づかないフリをして家に帰る。……出会ってしまえばこの物語は必ず悲劇で終わってしまう。そんな風に感じていた。  例え、互いに憎みあっていなくたって互いに愛し合っていたって、最後は別れに繋がってしまう運命ならば。  ――初めから出会わなければいい。  私達の代の赤ずきんとオオカミの物語は動かない。始まりがなければ終わりも来ない。そうすればこの(はなし)は終わるだろう。繰り返されることなく。  きっと今日もオオカミが隠れているであろう大木をちらりと振り返る。木陰の間からゆらゆらと揺れている栗色の尻尾があった。その尻尾にはいつぞやの白い兎や縞模様のリス達がじゃれついている。どうやら冬の間に仲間が増えたらしい。  その様子を見てふっと笑みがこぼれる。少しだけ眺めていると木陰から彼の手が白兎へと伸び、大木の裏へと消えていった。彼の腕には赤いリボンが巻かれていた。 「さぁ、暗くならない内に帰らなきゃ」  小さく呟いて村の方へ足を向ける。今までもこれからも私と彼が会うことはないだろう。でもこれで良かった。これしか、無かった。  彼の落し物の赤いゼラニウムのことを思い出す。あれは私が赤いリボンを彼宛に落とした翌日に大木の前に置いてあったのだった。それは今も部屋の中で綺麗に花を咲かせている。  家に帰ったら花に水やりをしようと考えながら木漏れ日差す森を歩いて行った。優しい風が森の中をそっと駆けていく。私の被っていたフードがふわりと外れ、そよ風が髪を撫でていた。
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