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しばらくの間、久しぶりの一人の時間を味わっていると遠くの方に木組みの小さな赤い屋根が見えてきた。ばあさまの家だ。
背の低い垣根の間にある細い道を通ってばあさまの家の扉の前に立つ。木で造られたこの家は古くに建てられた為か少しだけ黒ずんでいる。
「ばあさま、お見舞いに来たよ」
トントン、と扉をノックする。中からは優しい声で入室を促す言葉が聞こえた。右手を伸ばして取っ手を引いて部屋の中に入るとばあさまの家の香りがした。
「具合はどう?」
「大丈夫よ。少し風邪を引いてしまったの」
ばあさまが寝ている寝台の横にあるミニテーブルに母様から渡されたケーキとぶどう酒を置く。
「あら、美味しそうなケーキねぇ」
「そうでしょ? 母様と一緒に焼いたの」
「良くできてるわ。上手になったわねぇ」
ばあさまは柔らかく笑うと私の頭を優しく撫でてくれた。なんだか擽ったいけど胸の奥がじんわりと暖かい。
ばあさまと少し話した後、私は暗くなる前に帰ろうと軽くなった籠を持って立ち上がった。森は暗くなると道が見えずらく危ないのだ。
「ローゼ、帰るならあの林檎を持ってきなさいな」
そう言われ、ばあさまの指さした方を見ると赤くて艶のある美味しそうな林檎がバスケットの中に入っていた。
「ばあさま、この林檎どうしたの?」
「それがねぇ、玄関の扉の横に置いてあったのよ。きっと森の妖精が届けてくださったんだよ」
「そうなの。それは素敵ね」
「ええ、だから持ってお行き」
「はい。ばあさま」
籠の中に大きな林檎を三つ入れた。持ってきた時と同じくらいの重さだ。今日はこの林檎を使って母様がアップルパイを作ってくれるかもしれない。
ばあさまに挨拶をして家を出るとだいぶ日は暮れていて夕焼けの赤い光と森の薄暗さが相まって不気味さを帯びていた。涼しいというより肌寒さを感じながら私は垣根の間を縫って歩いていく。
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