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堂々巡りになっている疑問が頭の中を支配する。答えは出ない。胸の奥が締め付けられるようだ。重くてもやもやしたよく分からないものが居座ったまま退いてくれない。
「ローゼ……無事だったか!」
森の外、村の入口に着くとシャサールが待ち構えていたかのように飛び出して来た。彼は私に駆け寄ったかと思うと矢継ぎ早に質問を投げかけてきた。
「怪我はしてないか?」
「大丈夫」
「オオカミには遭遇しなかったか?」
「……うん。会ってない」
一通り聞いたシャサールは安心したようで、いつもの如く私の隣を平然と歩く。いくら私がこの代の赤ずきんだからって心配しすぎだ。……オオカミが本当に襲ってくるかも分からないのに。
「ねぇ、シャサール。オオカミは本当に赤ずきんを殺しに来るの?」
「当たり前だろう。今までずっとそうだったんだから今回も来るよ。絶対に」
「……絶対に、か」
「ああ、今回は中々襲って来ないけどね。この代のオオカミは慎重派で絶好の時を狙っているのかも」
今までそうだったから、今回も。本当にそうなのだろうか。今までの赤ずきんと私は違う。性格も、きっと環境も。それなら今までのオオカミと違うオオカミがいてもおかしくないんじゃないか。
だけどきっとこんなことを言ってもシャサールは否定するだろう。いや、シャサールだけじゃない。この村のほとんどの人がオオカミは悪いものだと決めつけているだろう。
「もし君がオオカミに遭遇してもすぐに殺せるようにしておくから安心して」
「……うん。ありがとう」
緑色の瞳を細めて微笑むシャサールは本当に私のことを心配してくれているのだろう。それは痛いほどに分かっている。けれど……彼の言葉に素直に頷けるほど私はオオカミが絶対的な悪者であるとはどうしても思えなかった。
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