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オオカミとの出会い
茂みを抜け、踏み固められた土で造られた道に出る。すると少し先の木陰に黒い影が見えた。その人影は右へ左へ視線を彷徨わせながらばあさまの家の方角。つまり今私がいる方へ歩いて来る。
咄嗟に近くにあった木の陰に隠れ様子を伺う。気づかれないよう息を殺す。心臓がどくどくと脈打つ。走ってもいないのに息が上がる。
人影は私の目と鼻の先を通り過ぎ、ばあさまの家の扉の前に何かを置いていくと足早に森の奥へと去っていった。とても人とは思えないような身軽な動きで、気付けばあっという間にいなくなっていた。
物音がしなくなったのを確認してから木陰の外に出る。詰めていた息を吐き、気持ちを落ち着けてからさっきの人影が何を置いていったのかを確認しに向かった。
「…………林檎?」
扉のすぐ横には大きな林檎が三つ置いてあった。どれも大きくて艶やかな美味しそうな林檎だ。
「これ、さっきばあさまが言ってた……」
森の妖精の贈り物とばあさまが言っていたものだろう。確かにこれはばあさまがそういうのも無理はない。だけど一つだけ気がかりなことがあった。
「……栗色の大きな耳に、ふさふさの尻尾。それに金糸雀の羽のような、黄色い大きな瞳」
私が見た『森の妖精』は幾度となく聞かされたオオカミの特徴と酷く似た特徴を持っていた。薄暗い森の中とはいえど、まだ日が落ちきる前の時間帯で見間違えることがあるだろうか。
「オオカミって、本当に悪者なのかな……」
私はそんな疑問を抱きながら思考の海に潜っていった。頭の中では色んなことが渦巻いている。
さっき見たのがオオカミとは限らない。本当に森の妖精なのかもしれない。だけど、オオカミだという可能性の方が高い気がする。
私は少し前、珍しくシャサールがいない時に一度オオカミを目撃している。その時見たオオカミは怪我をした動物の手当をしていた。最初は怖がっていた白い兎も手当の後は彼に懐き、彼も嬉しそうに笑っていたのだ。
あの時は遠目に見ただけだったが、特徴的な耳と尻尾は間違えようがなかった。今のも……多分オオカミだ。
でもそれだと今まで私が聞いてきたオオカミの話は一体どこまでが本当でどこからが嘘になるんだろう。オオカミは本当に危険で狡賢い生き物なのだろうか。
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