悲劇からの離脱

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悲劇からの離脱

 あの日から私は森に出かけることが多くなった。当然行き先はばあさまの家。だけど目的はばあさまに会いに行く以外にもう一つあった。これは誰にも言っていない、私だけが知ってる理由。 「最近ローゼが来てくれるから楽しいねぇ」 「私もばあさまと話せて楽しいよ」  すっかり風邪の治ったばあさまは私が遊びに来る度に色んなもてなしをしてくれた。目が悪いはずのばあさまだけど編み物や料理はお手の物だ。 「あのね、ばあさま。私少し聞きたいことがあるんだけど……いいかな?」 「なんだい、ローゼ。言ってごらん」  私は遠慮がちにばあさまに話しかけた。ばあさまの家の前でオオカミを見かけたあの日から季節は一つ過ぎ、気温が暖かくなり始めた今になってもまだ胸の奥のもやもやは消えることは無かった。  むしろ森でオオカミを見かける度にもやもやは大きくなり、村の皆が言うオオカミのイメージは間違ったものなのではないかという気持ちが増すばかりだったのだ。 「うん……えっとね、オオカミのこと、なんだけど……」 「オオカミがどうしたんだい?」  途切れ途切れに切り出した私の想像とは予想外に柔らかい口調で返された声に意表を突かれながらも私は村の人には話したことの無い思いを明かした。 「なんでオオカミと私達は過去の諍いを今でも引きづっているんだろう……って」 「なるほどねぇ……ローゼは今の状況に疑問を持ち始めたんだね」  ばあさまは真っ向から否定せずに私の問を受け止めてくれる。意見を押し付けずにいつだってちゃんと耳を傾けてくれるばあさまならこのもやもやだって受け止めてくれるかもしれない。 「うん。今と昔は違う。母様もシャサールもクランさんも皆オオカミは許してはいけないって言うけど……本当にそうなのかなって」 「そんなこと言う子はローゼが初めてだねぇ。だけど……その気持ちは分からなくもないよ」  ばあさまは少し驚いたように目を丸くしたけど、すぐに優しく微笑んで言葉を付け足す。ばあさまも現状に疑問を持ったことがあったのだろうか。
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