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のんべいよこちょの勇者と魔王
信号が変わり、人がスクランブル交差点になだれこむ。その中にオレもいた。
渋谷駅からセンター街へと導く白線の上を歩いていると、右から、左から、時に背後から、見知らぬ誰かがオレをすり抜け、去っていく。
半狂乱におちいったゴブリンの群れに迷い込んだ昔を思い出す。
そうか。あれはもう五年以上も……。
「フルーク!」
声の主はすぐ見つかった。
ヤツの特徴的な三白眼を、オレはこの5年間片時だって忘れたことはなかったから。
漆黒のスーツを着た細身の男に近づいていく。
ヤツの薄く血の気のない唇には以前とおなじ冷笑が浮かんでいる。
「服の趣味が変わったな、ケングラ」
「お前ほどじゃない。フルーク」
「確かに」とオレは苦笑する。
「全身ミスリルでキメる見栄っ張りが、ユニクロのジーンズとTシャツとは」
「環境は人を変えるんだ」
「詩を吟じるのは、ジョブが違う」
確かに。オレのスキルにそれはなかった。
「待ちかねたぞ、勇者フルーク」
ヤツは両手を広げた。
ハグでもする気かと困惑したが、細い指が鉤爪のように曲がっているのを見て気がついた。
威嚇しているのだ。オレを。あの時のように。
そちらがその気なら。
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