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「犯罪者! ああやってご近所さんのふりをして、あんたがドアを開くのを待ち構えてたの。部屋に入りこむためにね!」
「…………つまり、……どろ、ぼう?」
「……そーね、泥棒ならまだマシ?」
のろのろ動きだった頭が、不意に油を差されたように回転しだした。
押し入り。
窃盗。
性犯罪。
証拠隠滅の殺人――……。
一拍遅れて、手と足ががたがたと震えだす。
「結構あるらしいよ。横から滑りこむだけじゃなくって、後ろから押しこもうとしてきたり。手にした鍵を奪おうとしたりさ」
投げだした足、靴の先にウサギのチャームのついたキーが転がっていた。
女は愛華の前に膝をつき、薄化粧の顔を近づけた。
「だから、家のドアを開く前に周りに誰もいないかを必ず確かめて! ドアは細く開いてサッと入ってパッと閉じる! で、即、がちゃんとロック!」
「だ、誰もいないかを確かめて、細く開いたドアから」
「サッと入ってパッと閉じてがちゃんっ」
「が、がちゃん」
女は真剣な表情で頷いた。愛華も頷いた。先にくすっと笑ったのは女のほうだった。愛華もほんの少し唇を緩めることができた。
「良かったよ。間にあって」
深い息を吐いて、細い肩をへなりと落とす。
愛華は床に手をつくようにして深々と頭を下げた。
「ありがとうございます。本当に助かりました」
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