1.お隣さんはどんなひと

5/6
前へ
/11ページ
次へ
「いーよ、そんなの。ご近所さん同士、助け合わなきゃ!」  立てるかな、と首を傾げると、女は愛華に手を貸した。小さな手はひんやりとして良い香りがした。ハッカの甘さ。 「あ、警察……呼んだほうがいいんでしょうか」 「そのほうがいーんじゃない? ここ、いちおう防犯カメラもあるから。とっとと捕まればいーんだよ、あんなの」  女は階段室のほうを振りかえった。と、ばんっ、と音が鳴った。 「…………?」  上からだろうか。愛華は天井を仰ぐ。 「あー、ここ、古いから。古いとね、いろいろ」  実家もこんなふうに音が鳴った。家鳴り。建材が収縮したり動いたりしたときの音だという。鉄骨であろうマンションでも鳴るのだと、少し驚く。  手を借りて立ち上がり、間近の女の顔を覗く。愛華も小柄だが、女もかなり小柄だ。 「ええっと」 「あ、私、隣、三〇九号室」  女は顔は目を細めて笑った。愛嬌のあるコケシのような笑顔だった。 「すいません、私、引っ越しの挨拶もしていなくって……」 「いーよいーよ、私も昼間いないしさ。最近、そういう挨拶するひとのほうが少ないでしょ」  女は大きな口を開けて笑い、狭い肩をくんと窄めてみせた。 「今度、今度お礼に伺います」 「やめてー、そういう仰々しいの苦手ー」     
/11ページ

最初のコメントを投稿しよう!

27人が本棚に入れています
本棚に追加