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2.今度、遊びに行くね
警察に通報しているうちに、女は姿を消していた。少々心細かったが、彼女にも用事があるのだろう。あの恰好からして、どこかライブにでも出かけたのかもしれない。その軽やかさも都会に出てきたのだと感じさせた。
十五分もしないうちに、制服警官と女性を含む私服の警官――おそらくは刑事が早足で現れた。彼らは愛華が無事な様子に安堵したようだった。男の警官は管理人室のほうへと向かい、女の警官が愛華の話を聞こうとした。ひとりは四十がらみの私服、もうひとりは若い制服。クリーム色のサマーセーターを着た女刑事は、まずは何度も愛華の身の安全を念押したのちに話を促した。さっき笑えたのだから、話せると思った。だが、口を開くと唇が震えた。彼女に手を握ってもらって、やっと話しだすことができた。
「…………それで、お隣のかたが助けてくれたんです」
「隣?」
女刑事は手を止めた。おかっぱの制服警官が首を傾げた。
「両隣、三〇七号室、三一〇号室ともに空き部屋だと聞いていますが……」
「えっ?」
明るい笑顔が思い出された。
《私、隣、三〇九号室の》
「とな、隣は、三一〇号室なんですか。三〇九じゃなくって……?」
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