951人が本棚に入れています
本棚に追加
重役フロアーの前の秘書課、唯奈ちゃん、何も言わずにスタスタと素通りして、社長室に向かおうとした。
「アポはお取りですか?」
エルメスのスーツをスマートに着こなした、ストレートの長い髪の少しきつめな美人秘書が、唯奈ちゃんの前に、現れた。
「アポはいらないでしょ。社長の婚約者が社長に用事があって会いに行くんだから」
唯奈ちゃんが、そう言うと、きつめの美人秘書が、わたしの方を見て、睨んできた。
「婚約者?ああ、遺産相続のための婚約者でしょ。結婚して、遺産相続が済んだら、すぐに離婚されてお払い箱行きの。とっとと結婚して離婚されたらいいのに。社長も暇じゃないのよ」
きつめの美人秘書の言葉が、胸にぐさりと刺さる。
わたし自身、蓮社長がわたしに対して、誠意を見せてくれて、求愛をしてくれても、結婚したい理由が遺産相続のためだから、どうしても、信じられないでいた。
最初のコメントを投稿しよう!