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「バカと天才は紙一重」ってのは、バカにもなれない凡人の遠吠え
「珍しいな、時間通りに来るなんて。」
「まぁ、な。……久々だな、この景色。」
「そうだな。……楽しかったな、あの夏は。」
トオルは、柄にもなく町の夜景に見入っていた。
俺は、この場所でトオルと濃い時間を過ごしたからこそ、気づいてしまった。トオルの視線が、懐かしむそれとは少しばかり違っている事に。
若干の恐怖が、さっきより強くなって蘇ってきた。
「お前、高校卒業したらどうすんの?」
トオルが口を開いた。しかし世間話的な内容と反して、その言葉は重く響いたように感じた。
なんだ。何を打ち明けようとしているんだ。
「普通に大学行くよ。そんなすげぇ大学ってわけでもないけど。」
「その後は?」
「その後?……うーん、分かんねぇけど、普通に就職すんじゃねぇかなぁ。特にやりたいことが今あるわけじゃないし。」
「……そうか。」
トオルは、何度か頷くような仕草を見せた。少し冷たい夜風が吹いて、公園の木々をざわめかせた。
俺は葛藤していた。多分、先程からの恐怖の答えはここにこそあるのだ。こいつが柄にもなく時間通りに来たのも、言いたいことがあるのに言いにくそうにしているのも、それだけトオルにとって大切なことだからだろう。
それを受け止めてやれる自信が、俺にはなかった。
ただ、人間は目の前にある得体の知れないものを、そのまま放置しておける生き物ではない。俺はお腹に力を入れて、一歩を踏み出した。
「トオルは?どうすんの?」
「俺か。俺はな、」
トオルはイタズラっぽい顔で、笑った。
「東京に行く。東京に行って、芸人になる。」
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