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「好きにしろよ。あんな真面目な話の最中に漫才のくだりブチ込むようなお笑いに染まりきった奴、もう芸人になるしかねぇだろ。」
「……ありがとな。」
きっとトオルは成功するだろう。俺よりもっと面白い相方を見つけて、テレビの向こうであの日の体育館以上の笑いをかっさらい続けるのだろう。それでいい。俺は人並みの幸せを手に入れた食卓で、「こいつの最初の相方は俺だったんだぞ」と子供に自慢する、そんな未来も悪くない。
「んじゃ、これ返すわ。」
トオルが俺の手に握らせたのは、100円玉だった。
「いや、今は受け取らねぇ。」
「あ?」
「売れたら、返しに来い。」
「カッコつけてんのかよ。」
「……やってみたかったんだよ、こういうの。」
「ダッセェなぁ。けど、そのダサさがいいな。」
「絶対返しに来いよ。待ってるからな。」
「ナメんな。……そうは待たせねぇよ。」
この100円が返ってくる時、『ヒャッキンズ』は二人にとって過去になる。その日を楽しみにして、せいぜい平凡に生きてみようと思う。
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