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須永孝晴の正体
門田雨音と須永孝晴は駅前のハンバーガーショップに入った。
孝晴の話によると、夕雨とは経済学部のゼミ仲間として知り合ったらしい。飲み会で野球の話題になったとき、夕雨が妹のソフトボールについて自慢したとか。
「日本一のキャッチャーなら弟のクラスにもいる」孝晴はそう応戦したそうだ。実際、孝晴の弟の晴喜は雨音のことをよく話題にしていたという。
どっちが本当の日本一のキャッチャーか、決着をつけよう。そんな話で盛り上がり、よくよく確かめると同一人物、つまり雨音と判明したわけだ。
そこで孝晴は調子に乗って、夕雨の家を訪れ、雨音と遭遇。しかし雨音は「夕雨がよく家に連れてくる変な友だちのひとり」として相手にしなかった。孝晴はそう話したが、雨音はまったく覚えていなかった。
「まず須永、あ、晴喜くんが私のことを家でも話していたというのが信用できません」
「あいつも思ってることをすぐ口にするタイプだからね」
「あいつもって……」
「それより家出してるって本当?」
「何ですか、それ」
「夕雨が心配してたぞ。昨日妹にきつく言ったら、今日家出した、どうしようって」
「はあ?」
「本当に家出かよ? とか返信してたら、となりにびしょ濡れの妹が乗ってくるし」
「それで携帯見てたんですか」
「全然俺に気づかないし。外の景色見てにやついてるし」
「それは天気雨と二重虹という珍しい気象が重なったせいです」
「夕雨が絶対確保してくれってうるさいから……」
「だからって一回転ジャンプしますか? 急にできる技じゃないですよ」
「うん、まあ。それと新元号は景和じゃなくて令和」
「え?」
「れ・い・わ! 令嬢の令に平和の和って書く」
「あれ? 景和は声に出さなかったですよね。やっぱり心の声が読めるんでしょう」
孝晴は一瞬失敗したかのような表情を浮かべたが、すぐに「帰るぞ」と立ち上がった。
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