Saturday : 2

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「帰国早々悪いな」 「いいえ。仕事ですから」  悪いなどまったく思っていないだろう次長の言葉。この週末は休めるだろうと期待していただけにロウはがっかりした。 「君にかかればシリアルキラーも赤子同然。犯罪者を発見する臭覚は才能だな」  次長に「狼の嗅覚は人間の100万倍です」と教えてやりたくなったが黙っていた。文字通りロウは匂いをたどりターゲットに迫る。犯罪者は自分の痕跡を消すことに長けているが生きている以上「無臭」にすることは不可能だ。ましてや自分で認識できない匂いを消すことはできない。 「遺留物、物証がかなりありましたので立証には問題ないでしょう。FBIは犯人の所在を突きとめるだけという段階まで迫っていました」 「謙遜とは立派だな」 「……本題に入りましょう。今回のターゲットは?」  次長は言葉を一度飲み込みフォルダから何枚かの写真をとりだした。 「今回のターゲットはこの男だ」  わざとらしい青い背景からみてどこかで撮った証明写真だろう。内にある鬱屈としたもののせいか表情が暗い。穏やかな心持であれば人懐っこい顔だから損をしている。ロウの眉毛がピクリと動いた。サイコパスの大部分は「平凡」の皮を被っているがこの男が抱えている怒りは種類が違う。 「滝田隆俊、年齢24歳。一人暮らし。種別はΩオム。今日の午前中母親に逮捕状がでた」 「母親に?」 「滝田弓枝βフェムは種別隔離政策において違法である「種別ブリーダー」の容疑がかかっている。そして『ボーダレス』のメンバーだ」 「逮捕は?」 「会社を辞めて姿をくらました。刑事が隆俊の勤務先に聞き込みに行ったタイミングでビル火災が発生。避難したターゲットの行方はわかっていない。火災は仕組まれたもので避難訓練用の煙が隣の空きオフィスから吹き出しただけだった。逃走手段として仕込んでいたのだろう」 「母親ではなく息子がターゲットである理由は?」 「これから言う事は……口外無用だ」 「承知しています」 「滝田弓枝は20年前エスコートサービスをしていた。オリジンの女はプライドが高い。従順な女との癒しの時間を求めるオリジンの男達を相手にかなり儲けたようだ。法律違反だが昔からこの手の問題が取締で消えたためしはない」  ロウは頷くにとどめた。見え始めた内容に気持ちが沈む。
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