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 ロウはこの世の中に嫌気がさしていた。誰もが息苦しく生きにくいと感じ、争い、自分の優位性を守るために裏切り嘘をつく。  昔から続く人種差別とカーストが結びつきより複雑になった。シリアルキラーの多くが白人男性だった時代はもっと単純だっただろう。『20代後半から35歳くらいの白人男性。社交的とはいえないが日常生活を普通に送り仕事をしている。結婚をしている可能性があり、ターゲットを隠しておける建物を所有している』といったプロファイリングで犯人に近づけた。しかし今は違う。  人種より「種別」が大きな要素になり衝動の引き金が多様化した。もはや特殊な能力がなければ犯人を追いつめることができない。  ロウはオリジンではないしカーストにも所属していない。まったく別の場所に立っているがそのことを知るのはわずかな数の人間だけだ。ロウ・チャーリーを誕生させ教育した機関(あるいは組織)のトップだけが握る秘密。支配階級のオリジンですらロウは特別捜査課に所属するオリジンだという認識でしかない。  子供の頃に見た映画「Xメン」。一緒に観ていたドクは言った。「ロウ、私はこういう新人類を誕生させ世界を創り直したい」と。  その頃は両親のいない可哀想な子供としか自分のことを認識していなかった。だが違った――ロウ・チャーリーはドクが夢見る「Xメン」を現実にするための過程で生まれた試作品。 「すっかり冷たくなってしまった」  熱いものを熱いうちに食べたり飲んだりできる人間を羨ましいと思う。ロウは猫舌であり、遺伝子の為せる業だから仕方がないと諦めている。  冷めたコーヒーをドリンクホルダーに入れロウは待った。マンハントの手がかりとなる國北からの情報を。
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