南原太陽

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南原太陽

「なんだ、やるのか?!」  風太の胸倉を掴む。こいつはこんな状況でも涼しい顔を崩さない。それが気に入らない。 「君は中村さんにふさわしくない。」  こいつは涼しい顔でそんなことを言った。そんなのは知っている。誰がふさわしいのかも。  こいつは北里風太。中学時代、3年間遊子と学級委員をしていた。勉強が得意で、ガキの頃から図鑑なんかを読んでいる、いわゆる頭でっかちだ。  優等生の遊子の隣には、問題児の俺よりもこいつが居るべきなのだろう。それがわかってしまうからこそ、気に入らない。 「二人とも、やめてよ!」  チラリと見ると、遊子が顔を真っ赤にしながら叫んでいる。ツカツカとこちらへ歩いてきて、胸倉を掴んでいる俺の手に触れる。遊子はジッと俺の目を見る。なんでわかってくれないの。そんなことを言いたげな眼だ。  お前こそ、なんで俺の気持ちをわかってくれない。いつも一緒にいるんだぞ。  チラリと風太を見る。こいつは相変わらず涼しい顔をしている。このままだと遊子に嫌われるぞ。そんなことを言いたげな眼で俺を見ている。  わずかな抵抗の意味も込めて、風太を乱暴に離す。手元が狂ったのか、風太は床に投げ出される。そこまでするつもりはなかったので、少し悪い気がした。  遊子はすぐに風太の隣へしゃがみ、無事を確かめると、キッと俺を睨みつける。頼む、そんな目で俺を見ないでくれ。  居たたまれなくなり、教室を出る。今回も俺の負けだ。いつも手が先に出てしまって、その度に遊子に嫌われてしまう。胸糞悪いから、今日はもう授業をサボろう。それでまた遊子に嫌われてしまうのだろうけど仕方ない。 「僕は中村さんが好きだ。幼馴染の君に負けるつもりはない。」  中学時代に風太が言った言葉が胸に突き刺さる。  昼休みの終了の鐘が鳴った。
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