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「――おまえは嫉妬しても見失わない。私に大丈夫だと言った。わかっていると」
「でも、ずっと変な顔になっていたし……」
シルファが笑うと、声が振動になって、ミアの体の奥にまで響く。
「正妻に嫉妬する愛人は多い。その逆もまた然りだな。そして、主人を責める女も少なくない。でもミアは私の立場をわかろうとする」
「わたしは難しいことが何もわかっていないから。……公爵の正妻って大変なの?」
「まぁ、自由ではないだろうな」
シルファが話すたびに、ミアが頬を寄せている彼の胸元から、心地の良い声が伝わってくる。低くて、落ち着きのある響き。
「そっか。でも、いつかは影の一族じゃなくて、わたしに正妻を任せてもらえると嬉しいかも」
「面倒なのに?」
「うん、面倒でも大変でも、胸をはってシルファの一番ですって言えるのは格好良い。わたしには、まだまだ無理だろうけど」
「ミア」
体に回されたシルファの腕に力がこもる。ミアはますます彼の体の逞しさを意識した。耳元に息遣いが触れる。
「おまえのそういうところが、たまらなく愛しい」
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