人生卒業証書

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   さて、と私は証書を眺めていた顔を上げて、これを手渡しに来た政府職員を見上げる。五年前からずっと寝台生活の私の為に、この養護施設へ訪れてくれた人だ。  若槻と名乗るその女性は、にこやかに笑いながら話を進めた。 「それで、卒業後はどうしますか?これからひと月以内に決めて頂く必要があるのですが…」  そう。100歳を迎えた記念すべき日に早々、私はある決断を迫られている。五年前の意思確認と、一年前から受付が始まる事前申請が設けられているから、普通はもうとっくに決めておくべき事。それなのに、どうしたものか、私はまだ決められずにいる。  困って唸る私に、若槻さんは首を傾げながら問う。 「何かご不明な点がありますか?」 「あぁ、いや、そういうわけじゃ」  若槻さんの顔に疑問符。申し訳ないけれど、決められないものは仕方ない。こんなに優柔不断だったかなぁと自分でも不思議なくらいなのだ。  
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