人生卒業証書

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   人間の平均寿命は90歳を超えた。今や100歳まで生きるのが当然の時代。  出生率は昔に比べて格段に落ちたものの、人が死なないので人口は増えている。そうなると当然問題になるのが労働力、そして資源残量だ。  だから、人類は「人生卒業」制度を設けた。  100歳まで生きたことを讃え、「卒業」後のその先の生命の選択をするのだ。    一つは、「引き継ぎ」。  人の記憶は「移植」出来るようになった。人工的に作られた半機械の身体に記憶を移植すれば、加齢で朽ちる身体を捨て、新しい人生を送ることが出来る。文字通り、「第二の人生」だ。  「引き継ぎ」後は、これまでの自分の戸籍を使用することは勿論、新しい戸籍にすることも出来る。それぞれが、実質的に別の選択肢だ。新しい別人になる場合は、「引き継ぎ」内容自体に制限もあるが、一つの生命で二つ目の人生を歩めるなんて、生まれ変わるに等しい奇跡だ。  そしてもう一つが、「修了」。  生まれた肉体、一つの人生として生命を終えるのが、こちらだ。自然の「死」である。100歳を超えて生きられるようになったからこそ、延命を強制されるのではなく、本人の意思を尊重する為の選択肢だ。  この場合、肉体がいつ死んでもおかしくない。臨終にあたって問題が起きないよう、死亡した際に必要な準備・手続きを、生前に一括で済ませる。  これら三つの選択肢から、「人生卒業」後一ヵ月を期限として、どれにするかを決めなければならないのだ。  
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