百万人のかくれんぼ

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 目が覚めると百万人の人間が街から一斉に消えていた。  街から突然人がいなくなったのは、淳一が恵美と結婚して三日目の朝のことだった。いつものように目が覚めて、朝食のクリームパンを食べたあと、二人で仕事に行こうとマンションを出ると、街に百万人いたはずの人の姿はなく、ふたりだけが取り残されていた。人口が減ったというレベルではなく文字通り百万の人間が一瞬にして消えてしまっていたのだ。  焦ったふたりは空っぽになった街で人々を探し回ったが、いくら街中を探し回っても子供一人見つけることができなかった。大声をあげ、手を振り、鍵の開いている店という店、建物という建物に入って探したがいくら探してもサラリーマンの影すら見つけられない。 「きっといま世界中で存在している人間は私とあなただけよ」 「そんなことはないだろう、たぶん……」  街から人が消えた理由はふたりともわからなかった。三日間探し回ったが一人も見つけられなかったので、街の外に出て他の人を探そうと話し合ったりしたが、危険を冒してまで探す必要はないということになった。  なぜなら人がいないことを除けば電気、水道、ガスなどの街のライフラインは維持されていたし、食べる物も着る物も住む場所も街のなかにはいくらでも揃っていたからだ。薬局にいけば薬に不自由することがないし、街中に物は溢れていたのでお金を置いてくればいいだけだった。当分の間は働かなくても、蓄えだけで生活していくことができた。盗んでも捕まることはなかったのだろうが、それは二人の道徳心が許さなかった。  どちらかが車の運転ができたなら街の外に人を探しに出たかもしれないが、あいにくふたりとも免許を持っていなかった。それに運転手が必要な公共交通機関の利用ができなかったので、他の街に人を探しにいくことは無謀に近かった。他の街に人が生きていたならそのうち向こうからやってくるだろう、と気楽に考えて待つことにした。
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