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「うぅ……、重……っ」
スラックスのポケットから鳥飼の部屋の鍵を見つけだした私は、その脱力した身体を半分引きずるようにして、なんとかリビングのラグの上に横たえた。
「はぁ、も、無理……!」
本当ならベッドに寝かせたほうがいいだろうけど……ここまで連れてくるだけで、すでに体力の限界。
さすがに持ち上げる余力は残っていなかった。
ラグの上で仔犬のように身体を丸めて、荒い呼吸を繰り返す鳥飼。
目を覚ます気配はない。
濡れた前髪を避けて額に手を当てると、かなりの高熱があることは確かだった。
いつから、私の部屋の前にいたんだろう。
まさか……職場で別れたあとすぐじゃないよね?
だってあれから3時間以上経ってる……。
鳥飼の部屋の玄関に、傘は見当たらなかった。
それどころか、地面が濡れた形跡すらなくて。
もしかして、帰ってから一度も自分の部屋に入らずに、ずっとあそこで私を待ってた……なんてこと――
「っくしゅ」
小さなくしゃみが聞こえて、ハッと意識を引き戻される。
鳥飼はうなされているのか何度も身体をよじって、苦しそうにゴホゴホと咳をする。
室内は、外の雨の影響もあり少し蒸し暑い。それなのに、鳥飼はカタカタと身体を震わせていて。
私は部屋の中を見回し、ベッドの端に丸まっていたタオルケットを手に取るとふわりと鳥飼の身体を覆った。
どうしよう……。
濡れた服を着替えさせたほうがよさそうだけど、さすがにそれは……。
とりあえず、自分の部屋から体温計と冷却シートを持ってくる?
そうだ、イオン飲料とか買ってきたほうがいい?
それよりも、髪を乾かすのが先?
一人暮らしが長く誰かの看病なんてほとんどしたことがないから、まず何をしたら鳥飼が楽になるのか、正解がわからない。
「……さ、の……さん」
掠れた声が、不意に私の名前を呼ぶ。
「起きた?」と返すと、それに対しての返事はなく。
代わりに、鳥飼は固く目を瞑ったまま、うわ言のように「待っ……て」と呟いた。
気づいたら私は、鳥飼の手をとっていた。
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