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「居る……よ」
私は、ここに。
右手の湿った包帯を、そっと外す。
長時間濡れたままになっていたからか、手のひらがふやけて少し白くなっている。
腫れはだいぶ治まってきてるけど、紫色に変色した手首が今もまだ痛々しい。
「……ごめんね」
これは、何に対しての“ごめん”……?
怪我をさせてしまって?
頬を叩いてしまって?
それとも、熱が出るほど雨の中待たせて?
だって私、遅くなるから待たないでって言った。
それなのに、なんで……なんでそんなになるまで、あんなところに居たの。
ふと、右手の指先がピクリと動いた。
その指が、重なっていた私の小指を弱々しく握る。
そしてスローモーションのように、鳥飼の口元に引き寄せられた。
「……っ」
カサついた唇が、小指の爪先に触れる。
「ん……さの、さ……」
食むように、吸い付くように。
鳥飼は、朦朧とした意識のなかで、すがるように私の指にキスをする。
痛む手首に時折顔を歪めながら、伏せたままの長い睫毛を揺らして、何度も何度も。
「……っ、俺、の……っ」
いつ……私があんたのものになったのよ…………。
「ばか……」
いや。ばか、は……私の方か。
なんで、よりによって鳥飼なの。
チャラくて、一言多くて、ついこの間までセフレがいたような、尻軽なコイツを。
嫌味なほど家事力が高くて、時々気まぐれのように優しくしてきたりして、私のことをからかって楽しんでるような、腹立たしいコイツを。
なんで私は、こんなにも…………
「――すき」
腰を屈めて、顔を寄せて。
私ははじめて自分から、鳥飼の唇に自分のそれを重ねた。
まるで伝染していくみたいに、触れ合わせた部分から全身が熱を帯びるのがわかる。
ねぇ、どうしてくれるの……?
私……鳥飼のこと、どうしようもなく好きになっちゃった――――。
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