episode 1. 愛しい人と、満たされた朝を

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片付けを済ませて、お互い身支度をする。 洗面台で手早く髪をセットする小野寺さんを横目に、私はピンクゴールドの小さなピアスを耳朶に通した。 小野寺さんから去年の誕生日に貰った、雫型のピアス。 仕事の時はお守りのように毎日つけているから、もう私の身体の一部みたいにしっくり馴染んでいる。 「用意出来た?」 「うん」 鏡越しに目を合わせて返事をすると、小野寺さんは腕時計に視線を落として「よし」と呟いた。 私もつられて自分の腕時計を見る。 いつもの出社時刻より、今日は50分も早い。 「……今日、一緒に乗ってくか?」 「えっ!?」 小野寺さんの予想外の誘いに、私は驚いて素っ頓狂な声を上げてしまった。 だって、職場にバレたら何かと面倒だからと、いつもは別々の車で出勤してるのに。 急にどうしたの? 小野寺さん…… 私の表情に疑問符が浮かんでいたんだろう。 小野寺さんはフハッと笑って、 「別に、何となくだよ。一日くらいいいかなって。もし誰かに見られたら、美沙緒の車が調子が悪くて迎えに行ったとでも言っておけば」 と、車のキーを指でぶら下げて見せた。 「……そうですね。私ちょっとドキドキしてたから、小野寺さんと一緒だと心強いかも」 「ん。じゃあ、行きますか」 小野寺さん……もしかして、私が朝から少し緊張してるの、気づいてたのかな。 それでこうして一緒に行こうって、誘ってくれたのかもしれない。 私は誰も居ないエレベーターホールで、小野寺さんの腕にきゅっと抱きついた。 「なに?」 「ん……なんでもない!」 「なんだそりゃ」 「ふふ! 楽しみだなって」 「そーそー。お前は今日も、いつも通りそういう顔しとけばいーの」 小野寺さんは目を細めると、私の背中をポンと軽く叩いた。 うん。今日も、いつも通り。 だけど今日からは、昨日までとは違うワクワクとドキドキが待っている。 私達スタッフにとっても―― そして、これから挙式を迎えるお客様にとっても。 ――7月の第3土曜日、大安。 今日はグランマリアージュ迎賓館の、 拡大リニューアルオープンの日! ―――――Next→ 新しい扉
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