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柔らかな髪を撫でて、紅潮した頬に触れて。
瞬きした目尻から筋となって落ちる涙を、親指でそっと掬いとる。
目の前の潤んだ瞳は、今……俺だけを映してる。
そう思ったら、堪らない気持ちになる。
「……美沙緒」
「ん……?」
名前を呼ぶと、美沙緒は結んだ口の端をきゅっと上げて俺を見つめた。
不意に胸の奥から込み上げてくるものを感じて、俺は思わず美沙緒の背中に腕を回してその身体を抱き締めた。
「たすく……?」
「今、ダメ」
「え……」
「このままでいて。……頼むよ」
情けな……。
こんなこと、今まで一度だってなかったのに。
「もしかして……泣いてるの?」
「泣くわけない」
「うそ……」
「泣いてねーってば」
顔を離そうとしてくる美沙緒をそうはさせまいときつく抱き締めて、俺は美沙緒の細い肩越しに「はぁっ」と大きく息を吐き出した。
「美沙緒…………ありがとう。
幸せな家族になろうな……一緒に」
「うん……っ!」
もう一度、全身が溶けるほどの甘いキスをして。
美沙緒が2回目のくしゃみをするまでの間、俺達は、何度も何度も確かめ合うように唇を重ねた。
「っくしゅ!」
「……風呂、入ろっか」
「うん……」
「「……一緒に」」
「あはは! ハモったね」
――ほら、この顔。
この愛しい笑顔を、いつまでも傍で見ていたいから。
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