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社員駐車場に小野寺さんが車を停める。
まだ朝早いからか、車は疎ら。
私はゆっくり助手席のドアを開けると、きょろきょろと周囲を窺った。
「誰もいねーって」
「いや……でも……」
「プッ、そうしてる方がよっぽど怪しいわ」
小野寺さんは可笑しそうに笑いながら、すたすたとグランの裏口の方へ歩いていってしまう。
「ま、待ってくださいよ」
私は小野寺さんの背中に声を投げ掛けて、それからふと、足を止めた。
朝日に照らされて並ぶ二つの建物。
目を細めながら見上げると、自然に顔が緩む。
やっぱり、改めて見ても……
うん。素敵!
グランマリアージュ迎賓館と、その隣に新しく併設された別館。
―――“メゾン・ド・ルミエール”
直訳するとフランス語で“光の家”という意味の別館は、クラシカルで落ち着いた雰囲気のグランとは対照的に、ガラス張りの解放感ある披露宴会場が売りの、まさに光溢れる邸宅。
一年振りにグランへ帰ってきたとき。
完成間際の館内を小野寺さんに案内してもらったときの感動は、数ヵ月経った今でも鮮明に記憶してる。
この感動を、今度は私がお客様に伝えなくちゃ。
ここで結婚式を挙げたら、どんなに幸せだろう。
どんなに楽しい披露宴になるだろう。
どんなに素敵な思い出になるだろう……。
お客様に、そうやって近い未来をたくさん思い描いていただけるように。
「原田! 何してんの」
私を“原田”と呼ぶ小野寺さんは、もうすでにお仕事モード。
「はーい! 今行きます!」
眩しいほどの白亜の邸宅を背に、私は足早に小野寺さんの後を追った。
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