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「まだ、一緒にいたいんだ……。どんなにくだらないことでも良い、颯斗と喋りたいし、もっと颯斗のこと……知りたいんだ」
耳元で甘く囁く様子は、先週のドラマのラストシーンで龍ヶ崎演じる不知火が生徒である高萩結花莉へと囁くシーンと重なってしまう。
……俳優と日常的に会話する、って案外難しいんだな
良かれと思って、ドラマを見始めたけど考えようだな。
全てが演技にしか見えなくなってくる……
そう自嘲気味に心の中で呟くと、俺は無情にも龍ヶ崎の腕を引き離し、彼へと向き直る。
「龍ヶ崎様、俺にはやっぱり龍ヶ崎様の言葉が全て演技にしか見えません。……俺をドラマの練習代わりにしないで下さい!!」
はっきりと龍ヶ崎の目を見て伝えると、彼の顔からはみるみるうちに表情が消え去り、呆然としたままその場へ立ちすくんでいた。
その様子を見た俺は、少しずつ後退りをしドアから逃げるように出て行ったのである。
「高遠君?」
逃げるようにしてカウンターキッチン前へと駆け込んで来た俺に、副店長は心配そうに声を掛けるが俺の耳には届いていない。
その後、慌てて着替えてバックヤードから外へ出るも、いつもの様に男が待ち構えていることはなかった。
少しだけ面食らったが、それが先程俺が伝えた言葉の答えだと理解し、1人家路へと着いたのだった。
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