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『ゴメン……君のこと、好きじゃないんだ』
『え……』
今にも泣きそうな表情の結花莉。
『……“大好き”、なんだ!!』
不知火柊斗は、そう話すと自身が担任を務めるクラスの教え子、高萩結花莉を背後から勢い良く抱き締めた。
『先生、私……』
『シっ、もうそれ以上……何も言うな』
5月のそよ風が、2人を優しく包むように通り過ぎていく。
白衣を着た不知火は、紺のブレザーに黄色のラインが入ったグレンチェックのミニスカート姿の結花莉の耳元で甘く囁き、そのまま自身の方へ顔を向かせ唇を塞いだ。
「はい、カットーーー!!!」
メガホンを持った若き男性が、大学のキャンパス内で声を上げる。
その瞬間、撮影の様子を見守っていた大勢の人だかりは口々に不知火役の男を賞賛したり、携帯電話のカメラ機能で撮影をしていた。
……ったく、何で俺までこんなところに!
この春、都内のエリート大学へ奨学生として進学した高遠颯斗はドラマ撮影のロケを前にして、何処と無く苛立ちを感じていた。
それもこれも、高校時代からの同級生でありドラマ好きの赤羽心織のせいである。
「心織、俺もうそろそろバイトの時間なんだけど……」
わざとらしく、大袈裟に腕時計へと視線を向ける。
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