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「――で、何であの時逃げたんだ?」
夜9時45分。
超人気俳優は、ドラマでは決して見せない不機嫌さを全面に出し、タバコを咥えながら長い脚を組んで椅子に座っていた。
そして、俺は昼間の出来事を問い質されていた。
ここは、六本木にある一流の者しか出入りできない高級カフェ。
本来であれば、龍ヶ崎は窓際1番奥のソファ席がいつもの定番席である。
だが、本日は俺に給仕を勤めさせる為、マネージャーを通し高い金額を積んで珍しくVIP個室の当日予約をしてきた。
相当、俺に物申したいことがあるのだろう。
龍ヶ崎は、出会った時からいつだってお金で何でも解決しようとする。
貧乏育ちの俺には、その姿勢だけはどうにも好きになれなかった。
「えーっと、尋問でしょうか。……刑事ドラマ、撮影しているんでしたっけ?」
内心、龍ヶ崎へと苛立ちを感じていたがいつもの接客スマイルで、何事も無かったかのような態度を取る。
「とぼけるな。今日、俺のロケ現場にいただろ?」
鋭い眼光で俺を一瞥する。
……げ!
やっぱり俺のコト、気付いてて傍まで来たんだな……
「左様でございますか。あちらのキャンパスは、龍ヶ崎様のロケ現場である前に、そもそも私の通う学校であります」
龍ヶ崎の睨みを無視した接客スマイルで、その場の危うい空気を消しにかかる。
これも、接遇に厳しい店長からの教育の賜物だと思っている。
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