ゆのみ茶碗になりたいわたし

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ゆのみ茶碗になりたいわたし

“ハルコちゃんはね、とても頑張りやさんよ。 不器用で、目の前のことしかみえなくなっちゃう時もあるけれど、それでも一生懸命やってるわよ。 今までハルコちゃんが選択してきたことは全部間違いなんかじゃないの。 その時に精一杯悩んで考えて出した結論だもの。 ハルコちゃんはどんどん成長しているから、昔の自分の考えが嫌に思えてくると思うわ。 でもね、自分のことは嫌いになったら駄目よ。 ハルコちゃんは、けして間違って生きてなんかいないから。 今この瞬間もいろんなことに悩んで、考えているもの。 ハルコちゃんの心は中古品じゃない、不良品でもない。 壊れるんじゃなくて、新しく生まれ変わろうとしてるの。 だから苦しいんだよ。 自分を責めないで、頑張ってる自分のことを労うことも大切よ。 そうね、たまにはほっと肩の力をぬいてごらん。好きな飲みものでも飲みながら。 私は昔も今のハルコちゃんもぜんぶ大好きだからね。 今まで大切に使ってくれてありがとうね。“ ──────次の日 日曜日の朝、仕事はお休みだ。 ハルコはスケジュールを確認する。 久しぶりの予定なし。自分一人だけの時間。 まぁ、一人暮らしだからいつも一人だけどねと自分で自分に突っ込みをいれる。 あの一件の後、捨てようにも捨てれず結局テーブルの上に置いた粉々になったマグカップの破片の数々。 数年付き合ってきたお気に入りのマグカップに、ハルコは最初で最後の言葉を掛けた。 “今までありがとう。 もう片方のマグカップは彼に返してきます。 会うのめっちゃ気まずいけど。 私は今すごくお茶が飲みたいから、今度はゆのみ茶碗を買おうと思います。ゴツくて、渋い感じのね。 今度はすぐには砕けないんだからね。 ほっと、肩の力をぬいて、またお仕事がんばります。 私はゆのみ茶碗のようになりたい。“
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