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その娘が視界に飛び込んできた時のことを今でも鮮明に覚えている。
なんの取り柄もない平凡な顔、そして体躯。
簡素なドレスに身を包んだその姿はけして美少女とは言えず、隣に佇む娘の姉がなまじ鮮烈なまでの美女であるがために、娘の平凡さが際立っていた。
それでも男の目は娘に釘付けになっていた。
理由は明らかである。
平凡な顔立ちである娘はある一点において他の人間とは決定的に違っていた。
純白の髪。そう、娘はそこら辺にいる老婆とも違う、まるで汚れを知らぬような純粋なまでの白い髪をしていたのだ。
まるで白百合のような清廉さと綿雪のような柔らかさを合わせもつ見事なまでの美しさに男の魂はとらわれた。
(あの娘が欲しい)
生まれた瞬間からたぐいまれなる才覚、美貌、家柄と全てに恵まれ、高価なもの、美しいもの、珍しいものは何でも与えられてきた男は初めてそう願った。
(あの娘だけだ)
その感情が何なのか、すぐには理解できなかった。しかし、その感情が身を焦がすほどの激情であることだけは理解できた。
瞬間、風が吹く。
緑の葉も淡い桃色の花びらも青い川の僅かな雫も全てが舞い散る。
そして、娘の白く長い髪も踊るように舞った。
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