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100人の保育
とある人物と共に訪れた百に園長は驚きを隠せなかった。
そして、同時に恐怖で冷や汗が止まらなかった。
「では、100人を保育する契約をするにあたって百さんの条件を提示します」
高そうなスーツを身に纏った男性が手慣れた手つきで書類を出し、流暢に話し出す。
百はその隣で園長の様子に留飲を下げていた。
「100人を1人で見るというのはそもそも法に触れます。故に、法に触れることを公表しない代わりに彼女の条件を全て飲んでいただくこと。これを最低条件とさせて頂きます」
男性がトン、と軽く机を叩くと園長の肩が怯えるように跳ね上がった。
「1つ、保育園で100人を1人で見るのは無理があるので一番大きな体育館を期限一杯まで貸切ること。2つ、保育に当たっての必要経費がどれほどかかろうと全て園長が負担すること。3つ、園長も必要があれば必ず保育を手伝うこと。以上、3つを守って頂ければ100人の保育をやりきると彼女は言っています。……ああ、これは当たり前すぎて言い忘れていましたが、もちろん、ちゃんと月65万の給料を彼女に払うことも約束してくださいね」
そう言って男性は書類を園長に差し出した。
「ここに判を押してくだされば、彼女は今この瞬間から100人の保育を了承したことになります。では、どうぞ」
そこで男性が黙ると、冷や汗でびっしょりになった園長がようやく震える唇を開いた。
「そ、そんなの横暴だ……無、無茶だ! 経費全てって、もし無駄なものを買ったら」
「では契約はなしに」
「え、あ、ああ! ま、まって! わかった、約束する、するから!」
園長の言葉にすぐさま立ち上がる2人を慌てて止めて園長は引き出しを漁り印鑑を出した。
一瞬迷った後、意を決したように乱暴に判を押すと「こ、これでいいだろう。ちゃんと働けよ!」と吐き捨てるように言いながら書類を突き付けた。
「貴方のためではなく、子どものために! 働きます」
子どものため、を強調して百はフン、と鼻を鳴らした。
やっぱり味方を連れてきたのは正解だった。
「ありがとう、叔父さん」
「お安い御用さ。困ったらいつでも呼びな」
叔父はにっこりと笑った。
そう、百が連れてきたのは、行政書士の叔父。
破れない約束をしたならば、後は3か月乗り切るだけ。
「……よし、やるぞ!」
百は頬をパシリと叩き、気合を入れ直すのだった。
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