Rose

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 電車に二駅乗り、自宅の最寄駅で降りた僕は、夕食を買うために行きつけのコンビニに入る。いつもと代わり映えしない商品棚から、適当に弁当を選んでカゴに入れ、ついでにお茶も入れ、レジに並ぶ。そのときだった。僕は体中にゾクゾクとする感覚を覚える。それは、これまでに一度だって感じたことのない感覚だった。全身に鳥肌が立っているが、決して嫌な感覚ではない。むしろ、心臓は激しく脈を打ち、僕は興奮してゆく。  僕の順番がやってきて、カウンターにカゴを置く。目の前の若い女性店員が、 「いらっしゃいませ」  と、女の子らしい声で挨拶をする。その声に、僕はまた全身にゾクゾクという感覚を覚える。その女性店員は働き始めたばかりなのか、これまでに見た記憶はない。  目の前の女性店員は、おそらく僕と同じくらいの年齢だと思う。丸っこい輪郭と零れ落ちそうな大きな目に、フワフワとカールした肩ほどまでの長さの髪がよく似合っている。透き通った肌に、唇の赤がよく映える。僕はその女性に見とれてしまった。彼女の胸には“鈴木”という名札が付けられている。 「お弁当、温めますか?」  彼女が尋ねる。誰にでもかけられるそんな機械的な質問でさえ、彼女からされると胸が高鳴ってしまう。 「あ、あの、お、お願い、し、します」  僕は(ども)りながら答えた。そんな僕を、彼女は少し不思議そうに見る。だけど、すぐに弁当のバーコードを読み取り、電子レンジの中に入れる。弁当が温まるのを待っている間も、聞こえそうなくらいに心臓がドキドキと音を立てる。     
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