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「さっきまでの、綺麗な月はどこいったのよ、」
突然降り出した大雨に向かって呟くと、暗い空を睨む。
木の下に屈んで雨が過ぎるのを待つことにした奈緒は、とびきり大きな溜息を吐いた。
「あの人が帰るまで帰りたくないから、ちょうどよかった、」
木々の切れ間から落ちる雨粒に身体を震わせながら、奈緒は父の結婚の話を思い出していた。
あの家にはお母さんが居る。
何故今も居続けるのか、
言葉を交わさないからわからないけど、もしかしたら、お父さんを愛しているから天国に行かないんじゃないか、なんて。
そう思えば思うほど、複雑だった。
「ほんと、人の気も知らないで、彼女なんてつくる!?」
思わず声に出した。
「...ん、」
響くスマホにポケットを探る。
画面に出た歩生の文字。
数秒出るか悩んで、それから耳にあてた。
「どうしたの?電話なんて珍しい、」
「いや、おまえんちの洗濯物が干しっぱなしだから電話しろってうるせぇからー、」
「...ぁ、おばさんが?」
そうだった。
帰ったらあんな事になってたからすっかり忘れてた。
でももう手遅れだ。
「早くしねぇと間に合わねぇぞー、」
「すぐ取り込むから。おばさんにお礼言ってて!じゃ、」
奈緒は電話を切ろうとしたけど、それはすぐに遮られる。
「奈緒、今何してた?」
「何って、別に...ボーッとしてただけ...って、早くしろって急かしといて何で引き止めるのよ、」
「どうせもう間に合わねぇし、」
「え?」
奈緒は聞き取れなかったのかと耳を傾ける。
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