第二章

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傘に打ち付ける雨音が響く。 「おまえが濡れてんじゃん」 顔を上げると、奈緒に傘を傾けた歩生が、電話を耳にあてたまま見下ろしていた。 「...何してんの?」 「それはこっちの台詞。」 電話を先に切った歩生が、奈緒に手を差し出した。 無意識に手を出すと、掴まれ立ち上がらされる。 「それにしても、この公園来るの久々ー、」 歩生はにんまり笑って、公園をぐるりと見渡した。 「めちゃくちゃ懐かしいー。奈緒、一緒によく来たよな、」 「歩生。お父さんにあたし探してとか頼まれた?」 懐かしむ歩生を現実に引き戻す。 「奈緒が来てないか聞かれたから、来てるって言っといた」 「へ?...っ、いったぁい!!」 歩生は奈緒を覗き込んで、頬を抓った。 「何だよその間抜けな返事ー、」 「嘘ついたんだ?」 薄い眼差しで笑ってやる。 「嘘なんかついてねぇし。帰るぞー」 歩き始めた歩生について行く。 「歩生の家行ってないし、」 「だから、帰るぞって!俺の家に」 悪戯な笑みを満面に向けた歩生。 一つの傘に二人で入りながら、まるでタイムスリップした感覚に陥る。 奈緒は思わず、歩生が着てるパーカーの裾を掴んだ。 「それも懐かしいな、」 振り返らず歩生が口を開く。 「おまえ、ガキの時いっつも俺の後ろでそうやって掴んでたよな、」 「そうだね、否定しない」 「ん、ならまだガキのまんまってことだな」 振り返った歩生がにんまり笑った。 「それは否定する」 何だよそれー、そう、歩生はくつくつと笑った。 歩生の家に向かう道すがら、自宅を横目に足早で通り過ぎる。
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