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「奈緒ちゃんそんなに濡れてどうしたの!?」
歩生が玄関先で傘をたたむ。
おばさんが差し出すタオルが頭に被せられた。
「手がこんなに冷たくなってー、」
おばさんに手を握り締められ、その温かさに涙が出そうになった。
「おばさん、急にごめんなさい...」
「奈緒ちゃんならいつでも歓迎なんだから、とにかく入って」
小さな頃から、歩生のお母さんにはとても良くしてもらっている。
お母さんが亡くなった夜も、私が寂しがらないようにって、歩生と一緒に傍に居てくれた。
奈緒は照れ笑いを浮かべ、靴を脱いだ。
「母さん、奈緒に風呂かしてやって、」
歩生はぶっきらぼうにそう言って、奥の部屋へと向かって行く。
「あ、や、いいよ。大丈夫!すぐ帰...る、から、」
帰るー、
その言葉がはっきりと言えなかったのは、お父さんとの事を思い出してのことだった。
歩生は振り返って、怪訝に奈緒を見つめる。
「今更うちに気なんかつかうなよな、」
「そうよ奈緒ちゃん、お風呂入って来なさい。歩生、覗くんじゃないわよー」
「覗くか!」
クスクスと優しい笑顔で笑ったおばさんは、何かを察したように、その後の言葉を言わせないように洗面所まで手を引いた。
「着替え、出しておくからね」
「ありがとうおばさん」
奈緒がシャワーを出したことを確認した歩生の母は、安堵の息を吐き、リビングへと戻った。
「歩生、奈緒ちゃん何かあったのかしら?」
リビングで横になった歩生が視線を起こす。
「何かって?」
「何か聞いてないの?」
腕組みしながら母は歩生の隣に腰を下ろした。
「知らねぇし、何もないだろ。いちいち気にし過ぎなんだよ、」
「あら、歩生は心配じゃないの?」
きょとんとした眼差しで歩生を覗き込んだ。
「何かあるならそのうち言うだろ、」
歩生は立ち上がると、自室のある二階へと戻るため、リビングを出て行った。
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