第二章

5/6
前へ
/103ページ
次へ
「...歩生、」 階段を途中まで上がったところで、奈緒に呼び止められる。 顔を覗かせた奈緒と視線がぶつかった。 「部屋行くの?」 「来るなら髪乾かしてから来いよ」 風呂上がりの奈緒に、一瞬目のやり場に困った歩生が無愛想にそれだけ言うと、残りの階段を上って行った。 首を傾げた奈緒は、リビングへ入った。 「奈緒ちゃん、今日は泊まってってね。」 「え、や、でも...隣だし、泊めてもらうなんて...」 お父さんには電話しといたから大丈夫よ、と、お茶の用意を始めた。 慌てて手伝いにキッチンへと入ると、おばさんの視線が捉えた戸棚の紅茶を手渡す。 「奈緒ちゃん、何か困ったことがあるなら相談してね。」 「おばさん...」 「せめて、歩生には言ってあげてね。あの子、いつもあんなだけど、本当はすごく心配してるのよ」 そう、だよね。 歩生の心配そうな表情が浮かぶ。 はいー、 そう奈緒は静かに返事を返した。 お茶を持って歩生の部屋の前、奈緒は笑顔を作る。 「歩生、」 部屋を開けると、ベッドで横になった歩生が視界に入った。 「あゆ..む、?」 寝てるー、 奈緒は溜息を吐いた。 「何だよ、ほんとに心配してるのかー?」 奈緒は歩生が眠るベッドの下に腰を下ろすと、天井を仰いだ。 ふと、現実を思い出す。 お父さんに彼女が出来て、結婚する、あの家で暮らす。 お母さんが居るのに、新しい生活が始まるー、 何なのよもうッ 「父親なんだから悩み増やさないでよね...」 小さく呟いて、自分が少し冷静なことに気付く。 何だかんだ歩生がまた傍に居てくれたね。
/103ページ

最初のコメントを投稿しよう!

40人が本棚に入れています
本棚に追加