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「実はおじさんから聞いたんだけど、」
屋上の隅っこで、歩生は座り込むと、突然話始めた。
「聞いたって、何を?」
「おじさん、再婚するんだろ?」
奈緒は、柵に凭れて溜息を吐く。
「まだ決まってない」
「...奈緒」
呼ばれて歩生の隣に腰を落とす。
「どうでもいいけどよ、これから家を飛び出す時は、俺の家に来い」
てっきり、再婚を応援してやれとか、
ちゃんと帰って話し合えとか、
歩生が決まりきったことを言うと思っていた奈緒は、拍子抜けする。
「昨日みたいに、外でぶらぶらするのはやめろ、」
奈緒は我慢出来ずに大声で笑い始めた。
「何が可笑しいんだよ、」
ムスッとした歩生が奈緒を横目で睨む。
「何で今その話なのかと思って、」
「...仕方ねぇだろ、昨日は話す前に爆睡したんだからよ」
「へぇ、ほんとに寝てたんだ?」
「まーな」
わかってはいたけど、ほんの少しだけ、歩生が起きてたんじゃないかって、そんな風に思っていたのかもしれない。
僅かに胸が軋む。
「大丈夫。もう、飛び出したりしないよ」
奈緒は立ち上がると、制服のスカートを直した。
「じゃなきゃ、お兄ちゃんが心配するもんねッ」
舌を出して悪態をつく。
「歩生先輩、気が向いたら一緒に帰ってあげれば?」
笑ってそう言って、屋上の扉に向かった。
「おい、奈緒!!」
なんだろう。
この感じ。
こんなこと言いたかったわけじゃないのに。
歩生が傍に居たから、昨日を過ごせたのに、
最低だ。
泣きそうになって、慌ててその場を後にした。
何もかもが狂い始めている気がして、不安に押し潰されそうだった。
一人になったような気持ちに襲われ、誰もわかってはくれないなんて、子供みたいなことを考える自分が嫌いになる。
何とかしなきゃと自問自答しても、どうすればいいのかわからなくて、また、同じ場所を彷徨う。
急いで階段を駆け下りた。
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