第三章

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「付き合うのは勝手だけど、一緒に住むのは認めてない」 「だけどー、それを決めるのはー、奈緒ちゃんなのかしら?」 奈緒は言葉の意味を数秒考える。 「ここは、お父さんの家なはずよ?」 奈緒は、反射的に手を振り上げた。 考える余裕なんてなかった。 手の平が風を受ける。 それが頬に届くと思った瞬間、腕を掴まれる感覚。 反射的に振り返って息を呑んだ。 「...お母さ...ん?」 母は困惑した表情で奈緒を見ていた。 「...っ、」 それは、数分にも感じた瞬間だった。 「お母さん、何で止めるの!?」 この人が今言ったことは、この人の本性じゃない!! 「それなのに...」 何でー、 「...誰と、話してるの、?」 怯えたように声を震わせた博子が、奈緒をじっと見つめていた。 「誰も、居ないのにー、」 「...ただいま、」 声が聞こえ振り返った。 玄関先の奈緒と博子の姿に、父は一瞬戸惑っていた。 母の姿を捜した奈緒は、辺りを見渡した。 「何か、あったのか?」 答えない奈緒と博子を前に、父は溜息を吐いた。 「奈緒、ちゃんと話し合おう」 奈緒は、リビングの奥の和室へ向かった。 父の声は届いていなかった。 母の遺影の前、花瓶を手に取ると立ち上がり、無言で水を変える。 「奈緒は、博子さんのことをまだよく知らないだけだ。これから一緒に暮らして、時間を掛けて、お互いを知ればいいー、」 「もう充分わかったよ。」 振り返った奈緒は真っ直ぐ父を見上げる。 「すぐに、理解できた。この人が、勝手に入り込んで来て洗濯なんてするわりに、お母さんの花瓶の水を気にも掛けないような、そんな人だってことを、」 パンーっと、頬に痛みと音が響く。 父は、手を翳したまま、怒った顔で奈緒の目を見ていた。 「そんな言い方、博子さんの気持ちを考えろ!」 「お父さんは、お母さんの気持ちを考えた?」 奈緒は間髪入れず言葉を返した。 「考えないわけがないだろう?だから、由紀が亡くなってからずっとおまえを守ってきたんだ、」 「何にもわかってない。お母さんが一緒に暮らすこの家に、本気で余所の女の人を住まわせるつもりなの!?」 もう、止められなかった。 「毎日そこで座ってこっちを見てる、朝は必ず階段を下りてくる!お父さんには、足音すら聞こえないっていうの!?」 父と博子は顔を見合わせた。 「奈緒、もしも悩みがあるなら、お父さん何でも聞いてやる。一度一緒に病院へー、」 手首を掴まれる。
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