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そう、だよ。
わかってたんだ。
こうなることは。
だから、歩生にすら、この話は避けてたのだから。
すっとその手から抜け出すと、奈緒は遺影の前に花瓶を置いた。
静かに手を合わせる。
「お父さんは、もしかしたら、わかってくれるんじゃないかって、そんなわけないけど、ちょっとだけ期待したんだ。」
お母さんは確かに居る。
いつも一生懸命拭いていたテーブルを今は穏やかに眺めている。
ーごめんね、お母さん。
ーお母さんが早く家に帰って来れるように、家とお母さんを書いたの、
返事はなくても、母に私の声は届いている。
そんなこと、このタイミングで知るなんて。
ただ、二度とこの話はしてはいけないと、
奈緒は俯き、自室へ消えた。
どのくらいの時間眠っていたのか、泣いたせいで瞼が重い。
スマホの画面に23時56分の表示。
「...全部夢ならいいのに、」
呟いて、起き上がった。
部屋を出ると、僅かに聴こえた話し声に、奈緒はゆっくりと階下に下りる。
「...ねぇ、やっぱり奈緒ちゃん変よ?」
その言葉に、リビングへの扉の前、奈緒は開けるのを止める。
「今日も、あなたが帰ってくる前に、まるで誰かと話すような素振りで...」
博子の言葉に目を伏せた。
「奈緒の母親が亡くなった時、あの子はまだ三歳だった。」
行こうとして足が止まる。
「母親との記憶がはっきりしないまま、断片的に思い出されることを、今もまだ残像として残っているだけだ、」
「それなら尚更ー、やっぱり病院で見てもらったほうが...」
一緒に暮らすのは私の方も不安よ、
そう、博子の言葉を最後に、奈緒は外へ出た。
空気が澄んでいた。
星がキラキラしていて、空に向かって冷たい空気を吸い込むと、何故か笑みが零れる。
「お母さん、ごめんね。」
何か、私おかしくなったと思われちゃった。
きっとお母さんは、私に何かを伝えたいから留まっているはずなのに。
それは、一体いつになればわかるの?
「...教えて、お母さん...」
奈緒は、しばらくその場から動けずいた。
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