第三章

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そう、だよ。 わかってたんだ。 こうなることは。 だから、歩生にすら、この話は避けてたのだから。 すっとその手から抜け出すと、奈緒は遺影の前に花瓶を置いた。 静かに手を合わせる。 「お父さんは、もしかしたら、わかってくれるんじゃないかって、そんなわけないけど、ちょっとだけ期待したんだ。」 お母さんは確かに居る。 いつも一生懸命拭いていたテーブルを今は穏やかに眺めている。 ーごめんね、お母さん。 ーお母さんが早く家に帰って来れるように、家とお母さんを書いたの、 返事はなくても、母に私の声は届いている。 そんなこと、このタイミングで知るなんて。 ただ、二度とこの話はしてはいけないと、 奈緒は俯き、自室へ消えた。 どのくらいの時間眠っていたのか、泣いたせいで瞼が重い。 スマホの画面に23時56分の表示。 「...全部夢ならいいのに、」 呟いて、起き上がった。 部屋を出ると、僅かに聴こえた話し声に、奈緒はゆっくりと階下に下りる。 「...ねぇ、やっぱり奈緒ちゃん変よ?」 その言葉に、リビングへの扉の前、奈緒は開けるのを止める。 「今日も、あなたが帰ってくる前に、まるで誰かと話すような素振りで...」 博子の言葉に目を伏せた。 「奈緒の母親が亡くなった時、あの子はまだ三歳だった。」 行こうとして足が止まる。 「母親との記憶がはっきりしないまま、断片的に思い出されることを、今もまだ残像として残っているだけだ、」 「それなら尚更ー、やっぱり病院で見てもらったほうが...」 一緒に暮らすのは私の方も不安よ、 そう、博子の言葉を最後に、奈緒は外へ出た。 空気が澄んでいた。 星がキラキラしていて、空に向かって冷たい空気を吸い込むと、何故か笑みが零れる。 「お母さん、ごめんね。」 何か、私おかしくなったと思われちゃった。 きっとお母さんは、私に何かを伝えたいから留まっているはずなのに。 それは、一体いつになればわかるの? 「...教えて、お母さん...」 奈緒は、しばらくその場から動けずいた。
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