第四章

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母は、奈緒を見るとー、 笑顔で階下に向かう。 昔から、この仕草は、何となく母が着いてくるよう言ってるように感じていた。 子供の頃、そんな母の後を追い掛けた。 「...お母さん、下に、何かあるの?」 久しぶりだった。 いつものことだったこの光景に、奈緒はいつしか母が居ることに慣れ、呼ばれても着いて行くことはなかった。 だけど何となく、この日はいつもと違う何かを感じた。 途中、笑顔で振り返る。 「わかった。着いてくから、」 何があるのか知りたかった。 そうすれば、母が天国へ行けるヒントがあるかもしれない、 リビングの扉を開くと、博子が奈緒に気付く。 「あら奈緒ちゃん、おはよう。ご飯食べる?」 無視した奈緒は母の姿を捜す。 挨拶も出来ないなんて、そう、博子は小さく呟き溜息を吐いた。 和室の遺影の前、佇む母が指を差す。 「...そこに、何かあるの?」 大きな遺影の額縁の後ろを覗き込む。 「...これは、?」 手に取ったのは、宝石箱だった。 「確か、お母さんの...」 開くと、母の指輪やイヤリングが綺麗に並んでいた。 「...そうだった。あたしには、これがあったんだ、」 奈緒が手に取ったのは、御守りだった。 懐かしさで、一瞬心が和む。 無理をして外出許可を取った母との最後の夜。 (奈緒、ママの宝石箱に御守りを入れておくから、困ったことがあったら、お願い事をしてね) 目を閉じ、思い出す。 (好き嫌いしないで何でも食べること。いつも笑顔でいること。歩生くんと仲良くすること。あと、学校に行くようになったら、歩生くんと二人、車には気をつけること、約束出来る?) ーいっぱいあって覚えられないよー! そうねと、笑顔で言ったあと、母は抱き締めてくれた。
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