第四章

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「奈緒」 後ろから足音が聞こえたと同時に名前を呼ばれ振り返る。 振り返る前に、それが歩生だと言うことは声でわかっていた。 奈緒は、そのまま学校へ向かって歩き始める。 「急いでどうしたの?」 歩生を見ずに、先に言葉にする。 「いや、奈緒が見えたから、」 何となく、気まずい空気が流れた。 ただ、この時の奈緒には、歩生の声は届いていなかった。 ー何よ、これ。 奈緒は博子を涙目で睨んだ。 開いたペンダントの中に綺麗に切り取られ入っていたのは、若い頃の父と、博子の写真。 どういうことか考えるより先に、心が疲れ切っていた。 Yは、父の名前。 と言うことは、あの人が父に渡した物? 母の伝えたかったことは、 あの二人が、ずっと前から、お母さんが死ぬ前からー、 「奈緒、昨日から何怒ってるんだよ、」 「怒ってないよ」 知ってしまったことを、どう処理すればいいのか、そんなことわかるはずもない。 だけどー、 家を飛び出す寸前、母が奈緒に首を振った。 違う? 伝えたかったのはあれじゃないの? 「何かあるなら言えよ。俺はおまえがー、」 奈緒は立ち止まった。 「何?心配?」 真っ直ぐ歩生を見る。 「いつまでお兄ちゃんみたいなこと言ってんの?あたしたちはもう子供じゃない。あたしに構わないで、」 歩生くんと仲良くすることー、 「...本気で言ってんのか?」 困惑した表情の歩生に、私は追い討ちを掛けてしまう。 「あたしのことなんて何とも思ってないんでしょ?心配した振りなんてしないで!歩生が居たら、いつまでも恋だって出来ない!」 ごめん、お母さん。 考える事が多すぎて、 この時の私にはー、 歯止めを掛ける余裕なんてなかった。 「...悪かったな、」 歩生は奈緒に、背を向けた。 私はこの日をー、 どう過ごしたのか覚えていない。
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