第四章

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「何見てんのー?」 屋上の柵に凭れ掛かる奈緒の隣、亜美が視線を追う。 「最近元気ないね。奈緒」 「そんなことないよ。変わらない」 笑って見せた。 柵を背に、空を見上げた。 何も、思い出したくなかった。 ただ苦しかった。 お父さんとあの人のことも、 歩生に酷いことを言ってしまったことも、 お母さんが天国へ行けない訳さえも、 何もかもが私の心を壊してしまいそうだった。 「あ、あれー、赤坂くんと比内(ひない)さん?」 奈緒は瞬間振り返ると、亜美の指差す方へその姿を捜す。 校庭で、話す二人の姿。 「あの子、、比内さんって言うんだ、」 (歩生先輩も言ってました。凪野さんのこと、何とも思ってないって、) 「一年生の比内玲奈(ひないれな)、有名だよ?可愛いって」 「...そうなんだ。あたし全然知らない」 歩生の笑った顔に、奈緒はふっと力が抜ける。 大丈夫だった。 歩生、笑ってるもん。 久しぶりにちゃんと顔を見た気がする。 「ねぇ、奈緒」 呼ばれて亜美に視線を移す。 「いいの?何かあの二人いい感じに見えるけど、」 「いいって?あたしには別に関係ないし、」 「ほんとー?あたしてっきり、奈緒は赤坂くんのことが好きだと思ってたけど、」 好き? 歩生を? 歩生をー、 ズキンと、一瞬胸が痛む。 「好きも嫌いもないよ。物心ついたら居たんだから。兄妹みたいなものだったし、」 いつまでお兄ちゃんのつもり? 「家が隣だっただけ、」 あたしたちはもう子供じゃない。 「ただ、それだけ...」 歩生がいつも居たら、恋も出来ない。 ズキズキとひび割れるような感覚に頭を振る。 「あ、一緒に帰ってく」 二人を二度と見なかった。 ただー、 奈緒は、安心した振りを心で繰り返し、亜美の手を引いた。 「亜美ー!そんなことよりカラオケ行こう!」 「いいね!」
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