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駆け込んだ病院で、ようやく息を吐いたのは、エレベーターが降りてくるのを待つ時間だった。
スマホを取り出し亜美にメッセージを送る。
その手が震えていた。
短いメッセージを送った瞬間、エレベーターの扉が開き、奈緒はゆっくりと足を踏み入れた。
頭の中に浮かぶ歩生の悪戯な笑顔。
きっと、そんな感じで手を振ってる。
そう、言い聞かせた。
上っていくエレベーターが指定した階で止まった瞬間、息を吐き、病室のある廊下に出ると、左右を見渡した。
奈緒はー、
顔を起こし、人影が見えた廊下を真っ直ぐ進む。
「...奈緒ちゃん、」
歪むおばさんの顔が、涙で濡れていた。
「おばさん、歩生は!?」
おばさんが視線を向けた先に病室があった。
目を伏せ頭を振る姿に、予想していた事よりも恐ろしい事が起きていると実感が湧く。
全身に突き刺さるような寒気が襲い、何か言いかけたおばさんの言葉を遮るように肩を掴んだ。涙を堪え首を振った。
「...歩生に、会ってくる。大丈夫。歩生は、強いから」
本当は、何となく、
歩生がそんな感じで横たわっていることは覚悟していた。
頭の片隅に、そんな光景があったはずだった。
おばさんの電話で、何となく感じていたことなのに、
薄暗い病室の中、足が止まる。
カーテンの向こうに差す影。
まさかという思いに手が震えた。
見えた人影に、もしかして母かもしれないと、そんな思いが溢れだす。
こくんと息を呑むと、ゆっくりと近付いた。
「...歩生?」
やっぱり誰かいる。
歩生の前に誰かいる。
「誰?」
思い切ってカーテンを引いた瞬間、ベッドに横たわる歩生が居た。
「...あゆ、む?」
呆然と立ち尽くした。
誰かが居た気がした。
ただ、そこには眠っているだけにしか見えない歩生が居た。
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