第五章

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駆け込んだ病院で、ようやく息を吐いたのは、エレベーターが降りてくるのを待つ時間だった。 スマホを取り出し亜美にメッセージを送る。 その手が震えていた。 短いメッセージを送った瞬間、エレベーターの扉が開き、奈緒はゆっくりと足を踏み入れた。 頭の中に浮かぶ歩生の悪戯な笑顔。 きっと、そんな感じで手を振ってる。 そう、言い聞かせた。 上っていくエレベーターが指定した階で止まった瞬間、息を吐き、病室のある廊下に出ると、左右を見渡した。 奈緒はー、 顔を起こし、人影が見えた廊下を真っ直ぐ進む。 「...奈緒ちゃん、」 歪むおばさんの顔が、涙で濡れていた。 「おばさん、歩生は!?」 おばさんが視線を向けた先に病室があった。 目を伏せ頭を振る姿に、予想していた事よりも恐ろしい事が起きていると実感が湧く。 全身に突き刺さるような寒気が襲い、何か言いかけたおばさんの言葉を遮るように肩を掴んだ。涙を堪え首を振った。 「...歩生に、会ってくる。大丈夫。歩生は、強いから」 本当は、何となく、 歩生がそんな感じで横たわっていることは覚悟していた。 頭の片隅に、そんな光景があったはずだった。 おばさんの電話で、何となく感じていたことなのに、 薄暗い病室の中、足が止まる。 カーテンの向こうに差す影。 まさかという思いに手が震えた。 見えた人影に、もしかして母かもしれないと、そんな思いが溢れだす。 こくんと息を呑むと、ゆっくりと近付いた。 「...歩生?」 やっぱり誰かいる。 歩生の前に誰かいる。 「誰?」 思い切ってカーテンを引いた瞬間、ベッドに横たわる歩生が居た。 「...あゆ、む?」 呆然と立ち尽くした。 誰かが居た気がした。 ただ、そこには眠っているだけにしか見えない歩生が居た。
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