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「こんな時間までどこに行ってたんだ?連絡くらいしないと心配するだろ?」
父の言葉も届かないほど、奈緒は急いでいた。
飛び込んだ自宅で駆け込むリビング。
振り返った先に居た博子を無視した奈緒は、和室に飛び込んだ。
母の遺影の前、宝石箱を取り出す。
「探してる物はないと思うわよ...」
和室を覗き込んだ博子は、控え目に嫌味を含む。
開けると、そこにあった銀のペンダントは消えていた。
「あんなもの探しに来たんじゃない。」
奈緒はきっぱりと言った。
「御守り...」走って帰ってきた余韻でまだ息を切らせていた奈緒は、御守りを手にし、数秒呼吸を整えた。
その御守りを胸に祈る。
「お母さん...どこ?」振り返った先のテーブル、リビング、そこに母は居ない。
和室を飛び出した奈緒の肩が掴まれた。
「奈緒、座りなさい。話がある」
「話?あたしには話す事なんてない。」
手を振り払った奈緒は、階段を駆け上がった。
自室への途中、不意に足が止まる。
そこは、かつての父と母の寝室だった。
そういえば、暫く此処には入っていなかったが、何故か無性に気になり扉を開けた。
「...っ!?」驚きすぎて思わず大声が出そうだった口を自身の手で塞ぐ。
どくんどくんと響く心音。
ゆっくりと中へ入ると、ベッドの奥にある三面鏡の椅子に腰掛ける影。
バルコニーのカーテンは開いたままで、室内は夜の街灯だけで照らされていた。
「お母さん...?」
足を踏み入れ、ゆっくりと近付いた。
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