第五章

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「お母さん...助けて...歩生が...」 奈緒は涙を堪えながら、震える手で御守りを握り締めた。 「歩生が事故にあって...目を覚まさないの!」 影の背後、その背に手を伸ばした。 「お母さん...」 振り返った影と目が合った瞬間だった。 薄暗かった室内に、突然降り注いだ真っ白な光が奈緒の目を襲う。 屈み目を塞いだ奈緒は、隙間から差し込む光を知りながら、恐る恐る手を下ろすと、ゆっくりと顔を上げた。 チカチカと目の中で動く七色の粒。 何度も目を擦るも、視界が揺れて景色を捉えることが出来ずにいた。 音と景色が遮断されたことに焦り、頭を振って目を擦り続ける。 視界の中で揺れ動く七色の粒が少しずつ消え、景色が鮮明になり始めた。 「あ、あれー、赤坂くんと比内(ひない)さん?」 奈緒は瞬間目が覚めたように振り返ると、亜美の指差すほうを見る。 校庭で、話す二人の姿。 「何で...」 「一年生の比内玲奈(ひないれな)、有名だよね。可愛いって」 「...何で、また同じ光景が、」 呆然と呟く奈緒に、亜美は不思議そうな顔で覗き込んだ。 「ちょっと奈緒、そんなにショックなら、さっさと告白でもなんでもして取り返さなきゃ...って、聞いてる?」 「...何で、昨日に戻ってるの?」 「はぁ?」呟いた奈緒に亜美が怪訝な顔をした。 「...亜美!今日何曜日!?」 思わず亜美の肩を掴んでいた。 「金曜日だけど...どうしたの?奈緒、変だよ?」 「金曜日...」 どういうこと? あたし、もしかして夢を見てた? ポケットからスマホを取り出した。 画面はいつも通り。時間は16時14分。 「奈緒いいの?何かあの二人いい感じに見えるけど、」 亜美は考え込む奈緒に言葉を繋ぐ。 「あたしてっきり、奈緒は赤坂くんのことが好きだと思ってたから、最近大丈夫なのか心配してたんだよ」 好き? 歩生を? ぎゅっと柵を掴む手に力が入る。 ズキンと胸が痛み、我に返った。
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