40人が本棚に入れています
本棚に追加
「お母さん...助けて...歩生が...」
奈緒は涙を堪えながら、震える手で御守りを握り締めた。
「歩生が事故にあって...目を覚まさないの!」
影の背後、その背に手を伸ばした。
「お母さん...」
振り返った影と目が合った瞬間だった。
薄暗かった室内に、突然降り注いだ真っ白な光が奈緒の目を襲う。
屈み目を塞いだ奈緒は、隙間から差し込む光を知りながら、恐る恐る手を下ろすと、ゆっくりと顔を上げた。
チカチカと目の中で動く七色の粒。
何度も目を擦るも、視界が揺れて景色を捉えることが出来ずにいた。
音と景色が遮断されたことに焦り、頭を振って目を擦り続ける。
視界の中で揺れ動く七色の粒が少しずつ消え、景色が鮮明になり始めた。
「あ、あれー、赤坂くんと比内さん?」
奈緒は瞬間目が覚めたように振り返ると、亜美の指差すほうを見る。
校庭で、話す二人の姿。
「何で...」
「一年生の比内玲奈、有名だよね。可愛いって」
「...何で、また同じ光景が、」
呆然と呟く奈緒に、亜美は不思議そうな顔で覗き込んだ。
「ちょっと奈緒、そんなにショックなら、さっさと告白でもなんでもして取り返さなきゃ...って、聞いてる?」
「...何で、昨日に戻ってるの?」
「はぁ?」呟いた奈緒に亜美が怪訝な顔をした。
「...亜美!今日何曜日!?」
思わず亜美の肩を掴んでいた。
「金曜日だけど...どうしたの?奈緒、変だよ?」
「金曜日...」
どういうこと?
あたし、もしかして夢を見てた?
ポケットからスマホを取り出した。
画面はいつも通り。時間は16時14分。
「奈緒いいの?何かあの二人いい感じに見えるけど、」
亜美は考え込む奈緒に言葉を繋ぐ。
「あたしてっきり、奈緒は赤坂くんのことが好きだと思ってたから、最近大丈夫なのか心配してたんだよ」
好き?
歩生を?
ぎゅっと柵を掴む手に力が入る。
ズキンと胸が痛み、我に返った。
最初のコメントを投稿しよう!